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井伏・川端…文豪たちの自作朗読、ソノシート用に録音
谷崎潤一郎「細雪」、井伏鱒二「山椒魚」、川端康成「雪国」――。日本の文豪たちが自らの作品を朗読した音源を朝日新聞が所蔵しています。
1960年代に雑誌「朝日ソノラマ」などに付属するソノシート用に録音されました。講演やメディア出演とはまた趣が異なる語り口調で、文豪の個性がにじみ出る記録です。
「音の出る、新しい時代の月刊誌」そんな触れ込みで「朝日ソノラマ」は1959(昭和34)年12月に創刊されました。
「ソノシート」というと赤や青などカラフルでペラペラの小型レコードがイメージされますが、初期の朝日ソノラマは雑誌と一体でした。ページの一部のようにとじ込まれていて真ん中に穴があいています。雑誌ごとレコードプレーヤーにかけて再生しました。
創刊号にはソノシートが6枚付いていました。皇太子妃美智子さま(当時)の記者会見やロケットの月面着陸の音、伊勢湾台風の現地実況などが収録されました。
有名作家の「自作朗読」シリーズは、創刊から約1年後の第13号から始まりました。初回は志賀直哉の「暗夜行路」。物語終盤で主人公・謙作が鳥取・大山の自然のなかで新たな生き方に目覚める場面を6分にわたって読んでいます。
東京・渋谷の志賀の自宅で録音された。雑誌に掲載された編集部による録音時の述懐によると、志賀は録音レベルを測るテスト1回きりで本番に臨みました。「死ぬのが近くなると、なんでもかまわないから、ありのままの自分を、出しちまおうという気分だね。声の悪いのも」と本人の弁。鳥のさえずりも混じり、スタジオにない臨場感があります。
当時の朝日ソノラマ編集部にいた平野善一さんは「作家の肉声は大切だから、きちんと残しておきたいという企画意図があったようです」と振り返っています。自身も録音係として武者小路実篤の東京・調布の自宅などに出向きました。
「作家によっては読んでいるうちにテンポが変わってしまって、『もっとゆっくり』などとお願いすることはあった。ただ、多少の注文はつけたけれど、作家のくせがなくなってしまうよりは、自然にとるよう心がけました」と言っています。
個性があふれる録音もあります。武者小路は「友情」を読みながら涙ぐみました。尾崎士郎の「人生劇場 青春編」は上演された舞台を思い浮かべたといい、熱の入った朗読です。じつは前日まで伏せっていて、録音の2、3日後には入院したといいます。
「自作朗読」シリーズはほかに吉川英治「宮本武蔵」、室生犀星「小景異情」など計12回掲載され、この録音に、未収録分や新録音を加えた「現代作家自作朗読集」がこのソノシート付きの単行本として出版されました。